わが国が構築すべき独自戦略(上編)

「Nature Positive Insight」の刊行にあたって

― 自然資本を、開示の対象から意思決定の基盤へ ―

気候変動、生物多様性、水資源、土地利用など、自然環境をめぐる問題は、

いまや原材料調達や事業継続、投融資判断を左右する経営上の最重要テーマとなっています。

こうした背景のもと、東京農工大学は学長ビジョンにおいて「自然資本」を中核的な教育研究領域に

位置づけました。この大学が培った学術的知見と、企業や自治体が抱える現場の課題を接続し、

自然資本の社会実装を担う事業主体が、Dejima Intelligence 株式会社です。

当社は、その取り組みの一環として本レポートを刊行いたします。

シリーズ第一弾となる本稿では、「わが国に適したネイチャーポジティブのあり方」を考察します。

TNFD 等を参照した情報開示が広がる一方で、

次なる段階として求められているのは、自然との関係を固有の「場所」に即して把握し、

重点地域での具体的施策、成果指標、資金配分へとつなぐ「実装」にほかなりません。

しかし日本には、里山に代表される二次的自然や、管理不足(アンダーユース)、小規模で分散した

土地所有、さらには豊かな沿岸生態系など、欧米主導のルールとは異なる独自の条件が存在します。

本レポートでは、上編でこれらの特性を踏まえた「日本型ネイチャーポジティブ」の

基本的な設計思想を提示します。

続く下編では、KPI 設定、ガバナンス、MRV、実装ロードマップへとより実践的に展開していきます。

本稿が、企業や自治体、金融機関、大学、そして地域をつなぐ架け橋となり、

自然資本経営の実装に向けた確かな指針となれば幸いです。

INDEX

1.問題設定―「開示先進国」から「実装先進国」へ

1.1 開示は進んだ。では、経営判断は変わったか

1.2 自然リスクは「どこで起きるか」で決まる

2.欧米では自然価値をどう「事業のルール」にしているか

2.1 「自然を減らさない」から「増やす」へ―英国 BNG

2.2 自然再生を市場につなぐ―米国ミティゲーション・バンキング

2.3 生物多様性クレジットは新市場になるのか(期待と慎重論)

2.4 自社の自然リスクを「地図」で把握する

3.なぜ欧米モデルをそのまま日本に持ち込めないのか

3.1 日本の自然は「手を付けない」だけでは守れない

3.2 「使いすぎ」だけでなく「使わなさすぎ」が自然を壊す

3.3 一社・一筆では解けない―地域単位で自然を捉える

3.4 海を「炭素」だけで評価しない―日本の沿岸資本の可能性

4.日本型ネイチャーポジティブをどう実装するか―5 つの柱

4.1 「何をしたか」ではなく「自然がどう変わったか」を測る

4.2 点ではなく面で動かす―地域を一つの実装単位に

4.3 測れなければ経営判断できない―低コスト MRV9の構築

4.4 ブルーカーボンの先へ―沿岸価値を複眼的に測る

4.5 まず国内で証明し、アジアへ展開する

下編

第 5 章 自然資本を「環境活動」から「経営管理」へ

第 6 章 どこから始めるか―30 か月で実装へつなぐロードマップ

第 7 章 企業の資⾦と⾃然再⽣の現場をどうつなぐか

おわりに―開示の次に、企業に求められること