「自然資本×社会実装× 産学連携×人材育成×AI」

国立大学法人東京農工大学 学長
千葉 一裕
フォーティエンスコンサルティング株式会社 代表取締役社長
山口 重樹
1 月8 日、フォーティエンスコンサルティング株式会社 代表取締役社長・山口重樹氏と、東京農工大学 千葉一裕学長による対談が行われました。
今回は、その第2部をお届けします。
第2部:産学連携のアップデート|AI が共通言語になる
千葉
次に、こうした社会変革を実現するための「産学連携」のあり方についても伺わせてください。
これまでの産学連携は個別テーマごとの共同研究が中心でしたが、AI 時代にはデータやモデルそのものが産学の「共通基盤」になる可能性があります。
大学と企業がこれらを共通資産として保持することについて、どのようにお考えでしょうか。
山口
今後のAI は、まだデータ化されていない領域を学習させていくプロセスに入ります。その意味で、企業が持つデータと、大学が持つ研究成果や
フィールドデータを掛け合わせることは、極めて大きな価値を生み出すはずです。企業はどうしても短期的な利益を優先しがちですが、
大学は将来を見据えた長期的な研究が可能です。その研究成果をデータ化してAI に取り込んでいけば、長期的には大学のナレッジが発展し、短期的には
企業がそれを活用してビジネス化できます。結果として、大学の持つナレッジを適切に収益化(マネタイズ)していくことにも繋がるのではないでしょうか。
千葉
山口社長のおっしゃる通り、大学の研究成果をビジネスに直結させるインフラ作りはますます重要になりますね。特に自然資本の分野では、
個社ごとに評価方法がバラバラでは社会実装のスピードが上がりません。 大学が担うべき役割は、共通で使えるデータ基盤や評価ロジックを「協調領域」として
整えることだと思っています。それは単なる論文のためのデータではなく、企業が実際にビジネスを動かすための「実用的な基盤」でなければなりません。
企業のビジネスモデルから逆算して、どのようなデータが必要かを産学で一緒に設計していく姿勢が不可欠だと考えます。
山口
そうですね、AI 時代における競争力は「他者が持っていないデータをどれだけ持っているか」
にかかっていますので、大学に眠る貴重なデータをAI に学習させ、
ビジネスに展開していくことは大きな強みになります。その際、私どもが貢献できるのは
「ルールメイキング」の領域です。
ビジネス化にはテクノロジーの知見と、社会科学的なインセンティブ設計の両方が必要です。
「このルールなら企業がうまく動ける」という仕組みを設計し、大学の知見と掛け合わせることで
社会を動かす力にしたいと考えています。
千葉
「ルールメイキング」については、評価ロジックをブラックボックスにしないという視点も
大切ですね。AI の結果を人間が理解し、行政や企業が説明可能な形で運用できるようにする。
これはまさに教育の問題でもあります。データを提供するだけでなく、
それを理解し使いこなす人材、そして共通言語としての考え方を育てる場でありたい。
そうした新しい大学の姿が、今回、山口社長とお話しする中でより鮮明に見えてきました。
AI時代における競争力は
他者が持っていないデータを
どれだけ持っているか
山口
山口
今の世の中では専門性が分断されがちですが、論理的に突き詰めれば必ず共通項は見つかるはずです。
思考停止せず、アカデミズムが持つ普遍的な知見をビジネス側も学び、共通の土俵で社会を良くしていきたいと考えています。
千葉
ありがとうございます。今回、東京農工大学100%出資のDejima Intelligence 社と御社が包括連携をさせていただくことは、
まさにこの「共通の土俵」を具体化するための大きな一歩だと考えていますが、この連携に対して山口社長はどのような期待を寄せておられますか。
山口
農業と工学がクロスする領域は、これからの世界で最も重要な鍵となります。貴学の持つ比類なき強みをDejima Intelligence 社が事業化し、
そこに私たちのデジタル実装のノウハウを融合させる。弊社ではアグリフード・ネイチャーに特化したチーム・人材を抱え、
この領域のビジネス課題に取り組んでいます。この連携は大変光栄なことです。
千葉
ありがとうございます。今日お話しいただいた内容こそ、私たちの連携が目指す姿そのものです。
個々の企業では取り組みにくい領域を大学が束ね、共通資産として企業と一緒に育てていく。「研究と事業の間」という長年の壁を、
この強力なパートナーシップで乗り越えていきたいと思っています。
人材育成|AI 時代に求められる人材像
千葉
では最後に、AI 時代に求められる「人材像」について意見交換させてください。特に自然資本のように正解のない分野では、不確実性を理解した上で
「問いを立てられる力」が重要になります。山口社長は、これからの人材にどのような資質を求めておられますか。
暗記ではなく︑
自ら仮説を立てる力を養う
山口

フォーティエンスコンサルティング株式会社 代表取締役社長
山口 重樹
山口
大きく3 つのポイントがあると考えています。
一つ目は「仮説を構築する力」です。AI は問いを作ることはできません。よって、専門性を磨いた上で「暗記ではなく、自ら仮説を立てる力」を養うことが、
質の高い問いへと繋がります。 二つ目は「システムズアプローチ」です。一つの施策がどこで副作用を引き起こすのか。道路を作れば鉄道が廃れ、
高齢者の移動手段がなくなる例のように、物事の繋がりを多角的に想像できる人材が必要です。そして、三つ目は「将来を見通す力」です。
目の前のデジタル化だけに終始せず、その先の社会構造の変化を睨んで仮説を立てる力です。短期的なビジネス視点に対し、
長期的なインパクトを提示できる人材こそ、大学に育てていただきたいと考えています。

国立大学法人東京農工大学 学長
千葉 一裕
大学と企業がフラットな関係で
自由に意見交換できる
場の中心に学生がいる
千葉
千葉
大学の役割は単にスキル教育ではなく、思考の型や判断軸を身につける場であるべきだというご指摘、重く受け止めました。
「これを実行したらどうなるか」を予測・構想し、ビジョンを言語化して発信できる力。それは、知識を持っているだけでは得られない、極めて人間的な力です。
こうした教育は、大学だけで完結するものではありません。大学と企業がフラットな関係で自由に意見交換できる場の中心に学生がいる。
そうした新しい学びのエコシステムを、山口社長と共に作っていきたいと考えています。
山口
全く同感です。既存の枠組みを超えた挑戦をぜひご一緒させてください。
千葉
本日の対談を通じて、AI が社会を前向きに変え得る有力な希望であることを確信しました。
山口
私たちも、この包括連携を通じて自然資本や農工連携といった深遠な領域に、アカデミズムと共に挑めることを光栄に思います。
千葉
自然資本という難題に対しても、産学がそれぞれの強みを持ち寄ることで、必ず新しい可能性が開かれます。
大学は知を蓄積する場所ではなく、社会と共に未来を創造する場であり続けたいと願っています。
山口
こちらこそ、本日は大変貴重な機会をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
